G-ZYY1K7G8P5 中小企業が目指すべき決算書のかたち - こうしま中小企業診断士事務所
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中小企業が目指すべき決算書のかたち

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財務嫌いの原因は?

私は専門書が揃っている大きな書店に行くのが好きで、機会があれば書店に足を運んでいます。いろんなコーナーを見て回りますが、やはりまずは私の専門である経営や財務の棚を一通り眺めることから始めます。

決算書や財務についての本が棚一面を埋め尽くしているわけですが、それを見るたびに「財務とか会計が嫌いな人が見たら、ウンザリするだろうな」といつも思います。

財務が嫌いだけど、勉強せざるを得なくなった人が参考書籍を探しに書店に来たら、膨大な本が並んでいるわけです。その中からおそらく「誰でもわかる決算書入門」みたいな、とっつきやすそうな本を手に取ってパラパラと目次をめくります。そうすると、「経営比率」や「財務比率」に多くのページが割かれています。

例えば、営業利益率、経常利益率、流動比率、固定比率、自己資本比率など、比率系の指標がたくさん並んでいて、さらに「この比率は何%以上でなければならない」といったことが、それぞれの指標ごとに記載されているわけです。

財務や決算書について勉強しようと思って本を手に取った中小企業の経営者の方はそれらを見ると混乱してしまい、何を目指していいのか分からなくなり、その結果財務が嫌いになってしまうというパターンはよくあることではないかと思います。

中小企業が目指すべき決算書のかたち

そこで今回は、あくまでも中小企業に限定して、この形を目指すべきだというひとつの答えを提示したいと思います。この形を目指すことで、財務に関する悩みの大半が解消されるのではないかと思いますので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。

ちなみに、この記事の内容はYouTube動画で説明しています。動画の方が分かりやすい人は、ぜひ動画をご視聴いただければと思います。

P/LよりもB/S、特に現預金と純資産を重視

まず結論から申し上げます。貸借対照表(B/S)を重視してください。損益計算書(P/L)よりもB/Sを重視することが重要です。そして、B/Sの中でも特に「現預金」と「純資産」を重視してください。この順番で充実させていけば、大まかな財務の方向性として間違うことはありません。

なぜB/Sの中でも現預金と純資産を重視する必要があるのでしょうか。理由はシンプルで、倒産の可能性を限りなくゼロにするためです。

例えば、手持ちの現預金が多ければ、どんなに赤字が続いても、そもそも支払い不能にはなりません。月末に現金が足りなくて取引先にお金を支払えない、手形を落とすことができないという状況は、手持ちの現金に余裕があれば防ぐことができます。

純資産についても同様です。純資産が多ければ、債務超過にはなりません。債務超過とは、資産より負債が多い状態のことを指します。この状態を避けることができれば、倒産を遠ざけることができます。

中小企業で重要なのは倒産しないこと

中小企業においては、何よりも安定した事業継続が求められます。急成長や急拡大は、銀行や取引先もあまり求めていません。安定した成長、安定した拡大で十分です。事業継続を安定させることで、企業を取り巻く関係者、経営者やその家族、従業員や取引先などの生活を支える基盤となることができるのです。そのためにも倒産を防ぐことが何よりも重要です。

ここでいう倒産とは法的な用語ではなく一般用語です。正式には「破産」や「法的整理」といった言葉が使われます。破産法という法律では、破産手続き開始の原因として「支払い不能」と「債務超過」の2つが挙げられています。支払い不能とは、月末にお金が足りなくなり、取引先などに支払いができなくなる状態です。また、債務超過とは貸借対照表において資産より負債が多い状態を指します。この2つが破産手続き開始の原因です。

つまり、この2つを避けることで倒産から遠ざかることができるのです。

現預金は月商の3か月分を保持

特に支払い不能を避けるためには、現預金を厚くすることが重要です。目安として、月商の3ヶ月分の現金を確保することをお勧めします。現金を3ヶ月分持ちましょうとオススメしているのも一応私なりの理由があります。ちょっとコロナ流行初期の頃を思い出してみて欲しいんです。

2020年初めの新型コロナウイルス感染症の拡大初期には、観光業や飲食業をはじめとする多くの企業において、売上が突然消失する状況に直面しました。そのような中で政府の対応は比較的早く、4月には緊急コロナ融資の制度がスタートしました。ただし、多くの企業が金融機関の窓口に殺到する中で、対応する職員さんも感染を避けながら非常に多くの申請案件をさばいていかなければならない状況だったんですね。そのため、融資が実行されるまでに最長3ヶ月程度を要したケースもあったと聞いています。

このような場合、企業の明暗を分けたのは融資が実行されるまで乗り切れるだけの手元現金を保有していたかどうかです。コロナ禍のような突然で理不尽な事態には公的な支援が差し伸べられることが多いですが、その場合でも一定のバッファがなければ、企業の存続が難しくなります。

我々は歴史に学ばなければなりません。今回のコロナ禍という歴史に学んだ場合、月商の3か月分の現金を持っていれば何とか乗り切ることができたという教訓を得ることができます。これが月商の3か月分の現金を持つべきだという私なりの根拠です。

とはいえ、現金を増やせと言われても具体的にどのように増やせばいいのか。「現金がないから困ってるんだ、そんなに簡単に増やせるなら苦労しないよ」というのが事業をされている方の本音ではないでしょうか。

これはもう素直に銀行から借りて欲しいんですね。使える制度融資があれば使いましょう銀行から融資の提案があればそれを受けましょう。そうすることでなんとか月商の3か月分の現金を手元に確保しておくことを強くお勧めします。

もちろん借入金を増やすことで自己資本比率は悪化してしまいますが、自己資本比率が多少悪くても、手元現金が少ない方がはるかに危険です。あまり気にしないようにしましょう。自己資本比率は、十分な手元現預金が確保できるようになってから考えても遅くはありません

純資産は月商の2か月分を保持

また、純資産については月商の2ヶ月分を目安に持つことを提案します。これにも一応の理由があります。

例えば、年商6億円、仕入等の変動費が3億円、固定費が2.5億円で利益が差し引き0.5億円という中小企業の例を考えてみましょう。仮に何かしらの危機的事態により年商が6億円から3億円に半減したとします。売上が減少すると同時に仕入れなどの変動費も減少するので、変動費も1.5億円と半減しますが、人件費や家賃などの固定費2.5億円はそのまま残ります。すると、利益は1億円の赤字に転落してしまいます。

この企業は平常時には年商6億円でした。つまり、月商としては12で割った5000万円です。利益が1億円の赤字に転落した時に、純資産が月商の2か月分、つまり1億円あれば、1年間は赤字が続いても何とか債務超過にならずに持ちこたえることができます

債務超過に陥ると銀行融資の可能性はほぼ壊滅的となります。純資産を一定程度保つことができれば、外部からの信用力を維持することができ、倒産リスクを軽減することが可能になります。

もちろん、これは一例でしかありません。業種や企業の状況によって異なりますが、「純資産を厚くしてください」と言われても、ある程度の目安がないと難しいと思いますので、ここでは月商の2か月相当の純資産があれば、そんなに外しませんよ、とお勧めしています。

まとめ

まとめです。中小企業は貸借対照表、B/Sを重視しましょう。その中でも特に現預金と純資産を充実させてください。現預金は月商の3ヶ月分、純資産は月商の2ヶ月分を目安に保持することをお勧めします。自己資本比率などの財務指標については、このラインをクリアできた後に考えるようにしてください。

これらをクリアできれば、とりあえずは資金繰りが回らなくなる恐怖におびえる日々からは卒業できるはずです。夜も枕を高くして眠ることができるようになるかと思います。

ABOUT ME
幸島誠
幸島誠
化学品メーカーで経理財務、経営企画部門のマネージャーを歴任
現在は中小企業を対象にキャッシュフロー改善を主軸とした伴走支援を行っております。
数字が苦手なビジネスパーソンに会社のお金の流れをシンプルにお伝えていきます。
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