事業会社のための財務モデリング入門
中期経営計画、事業計画作成に特化したシンプルな予測財務諸表の作り方
4講_予測財務諸表シート データ入力
ここまでで予測財務諸表のフォームが完成しました。次はフォームにデータを埋めていきましょう。まずはKPIエリアから始めていきます。
KPI設定
過去実績の売上を要素分解する
損益計算書で過去3期+当期の売上高を入力していました。それを「顧客数」「客単価」「購入頻度」に分解していきます。
社内の管理資料や営業部門へのヒアリングを通してざっくりと分解していきます。ここではあまり厳密さを追求しなくても構いません。関係者が見て違和感を覚えない程度の数字が置かれていればOKです。
売上に係るKPIの予測値を設定する
売上構成要素各項目について実績値を入力したら、将来5年分の予測値を設定していきましょう。すでに事業計画があればそれをベースにします。なければ、実績値の延長線上に一定の成長率で伸びていく前提で数字を置いてみましょう。
「顧客数」「客単価」「購入頻度」それぞれの予測値を設定したら、P/Lエリアでそれらを掛け合わせて予測売上高を計算していきます。
過去実績から売上原価率・販管費率を算出する
つぎは「売上原価率」と「販管費率」について算出しましょう。
それぞれ、P/Lから「売上原価÷売上高」、「販管費÷売上高」で計算していきます。
売上原価率・販管費率の予測値を設定する
「売上原価率」「販管費率」の実績値を算出したら、それを参考に予測値を設定していきます。予測値の算出ができたら、P/Lエリアで「売上原価」「販管費」をそれぞれ計算します。
計算式は、「売上原価=売上高×売上原価率」「販管費=売上高×販管費率」です。
過去実績から債権、債務、棚卸資産の回転日数を算出する
次は運転資本に係るKPIを算出していきます。
まずは実績値から求めていきましょう。各項目の計算式は下記となります。
売上債権回転日数 –> 売掛金÷(売上高÷365)
仕入債務回転日数 –> 買掛金÷(売上原価÷365)
棚卸資産回転日数 –> 在庫÷(売上原価÷365)
運転資本に係るKPIは回転率もしくは回転日数で表現することが多いですが、ここでは回転日数を使っています。売掛金・買掛金・在庫の保持日数を表しています。一般的には売掛金と在庫の回転日数は短いほど良く、買掛金は長いほど良いと言われます。
各回転日数の予測値を設定する
各回転日数の実績値を計算したら、それを下敷きに予測値を設定していきましょう。予測値は実績値と同様か少し改善した数字を置いていくのが一般的です。
予測値を設定したらそれをベースにB/Sの「売掛金」「買掛金」「在庫」各項目を算出していきます。
売掛金 –> 売上債権回転日数×(売上高÷365)
買掛金 –> 仕入債務回転日数×(売上原価÷365)
在庫 –> 棚卸資産回転日数×(売上原価÷365)
金利や税率など定数化しておきたい項目を予測値として設定する
それ以外に設定したいKPIは「その他設定値」に置いておきましょう。ここでは「借入金利」と「法人税率」を変数として設定しております。
個別計算エリア入力
過去実績をもとに借入金の動きを分解する
次に個別計算エリアを埋めていきましょう。まずは有利子負債です。
期末残はB/S借入金残を参照します。そして期初残と期末残との差額を「借入」と「返済」に分解していきましょう。分解にあたっては返済実績表や総勘定元帳から情報を拾ってください。
また、「対期初残返済割合」についても計算します。これは借入金期初残に対して返済額が何%程度かを表す指標です。返済予測額を算出するのに使用します。
借入金の動きの予測値を設定する
実績値が埋まったら予測値を入力していきましょう。
借入は現時点ではゼロで構いません(財務モデルが完成してキャッシュ不足が判明したら適宜借入していきます)。各期の返済については、実績値をもとに設定した「対期初残返済割合」に期初残を乗じた額を返済予定額として算出していきます。
また、計算した各予測期の期末残をB/Sの借入金へ転記しましょう。
過去のP/L,B/Sから建物勘定エリアの実績値入力
次は建物エリアです。最初に実績値を埋めていきましょう。
期末残は、B/S残から、減価償却費はP/Lからそれぞれ転記します。また、ここで「減価償却費率」を計算しておきましょう。計算式は「減価償却費÷期初残」です。この比率は、予測値の減価償却費算出時に使用します。
建物勘定の予測値を設定する
次は予測値を算出していきましょう。
さきほど算出した実績の減価償却費率に各期の期初残を掛け合わせて、予測期の減価償却費を計算していきます。
そしてそれをP/Lへ転記します。また、予測期の各期末残はB/Sの「固定資産(建物)」欄へ転記しましょう。
P/L作成
予測損益計算書の全体像
それではいよいよ予測P/L作成です。
ここまで入力を進めてきた中である程度数字は埋まってきていますが、振り返りも兼ねて各項目を上から順にみていきますね。一緒に予測P/Lの計算ロジックを確認していきましょう。
予測損益計算書_売上
まずは売上高です。これは「顧客数×客単価×購入頻度」の掛け合わせで計算されていましたね。
予測損益計算書_売上原価
次は売上原価。計算式は「売上高×売上原価率」です。
予測損益計算書_販管費
販管費は、「売上高×販管費率」で算出されています。
予測損益計算書_減価償却費
減価償却費です。これは「建物」計算エリアの減価償却費から飛んできていました。
予測損益計算書_営業外収益
営業外収益については比較的重要性が低いと判断し、例外的にベタ打ちしています。重要性の判断はケースバイケースです。営業外収益のウエイトが比較的高い会社は、何らかの計算式によって算出するようにしましょう。
予測損益計算書_営業外費用
次は営業外費用です。ここでは、営業外費用=借入金利息という前提で計算しております。
有利子負債エリアで計算した「期初残」に、その他設定値エリアの「借入金利」を乗じた数字を借入金利息(=営業外費用)としてP/Lに転記しています。
予測損益計算書_特別損益
特別損益も営業外収益同様、ベタ打ちしております。
予測損益計算書_法人税
法人税は「税前当期利益×法人税率」で算出します。法人税率は「その他設定値」エリアから参照しましょう。
B/S作成
予測貸借対照表_現金欄はいったん空白に
P/Lが全て埋まったらB/Sを作成していきます。
基本的には上から順に埋めていきますが、一番上の現金欄は今の時点ではいったん空白にしておきましょう。後ほど、キャッシュフロー計算書(C/S)作成しますが、そこで期末現金残を計算しここに転記していきます。
予測貸借対照表_売掛金・在庫・買掛金は回転日数から算出する
次は売掛金と在庫、ちょっと飛びますが買掛金についても一緒に確認していきましょう。
すでに説明済みですので詳細は省きますが、それぞれ「売上債権回転日数」「仕入債務回転日数」「棚卸資産回転日数」を使って算出していきます。
予測貸借対照表_固定資産(建物)
固定資産(建物)については、「建物」計算エリアの期末残より転記します。
予測貸借対照表_固定資産(土地)
固定資産(土地)については、動きが無いため前年の数字をスライドさせていきます。もし動きがある場合は別エリアで計算しておきましょう。
予測貸借対照表_借入金
借入金は「有利子負債」計算エリアの期末残より転記します。
予測貸借対照表_資本金
資本金については動きが無いため土地同様、前年の数字をスライドさせていきます。もし増資や減資が見込まれるのであれば別エリアで計算しておきましょう。
予測貸借対照表_利益剰余金
利益剰余金というのは、過去から現在までの利益の蓄積です。
利益剰余金=前年利益剰余金+当期純利益
C/S作成
予測キャッシュフロー計算書_全体像
B/Sまで作成できたら、次はキャッシュフロー計算書(C/S)です。
C/Sは現金の増減を表すもので、期初現金と期末現金との差を「営業CF」「投資CF」「財務CF」の3つの切り口で分解していきます。
予測キャッシュフロー計算書_前期末現金を繰り越し
一番上から順にみていきましょう。
期初現金残については、前期末現金残を繰り越していきます。
予測キャッシュフロー計算書_当期純利益
「営業CF:当期純利益」は、P/Lの当期純利益より転記します。
予測キャッシュフロー計算書_運転資本増減
つぎは「営業CF:運転資本増減」です。ここがC/Sエリアでの最難関ポイントとなります。
運転資本とは事業を運営していくうえで必要となるキャッシュの事です。会計上算出した利益が即現金化するわけではありません。利益は出ているのに、過剰在庫を抱えたり売掛金が回収できなかったために現金が不足し、倒産に追い込まれることも多々あります(黒字倒産)。
C/Sの重要な機能として、この「運転資本増減」をモニタリングすることがあります。ここは大事なポイントなので、概念も含めてしっかり理解しておきましょう。
運転資本は3つの要素で構成されます。売掛金増減・在庫増減・買掛金増減です。売掛金と在庫については増加した時はキャッシュの減少要因、買掛金は逆に増加時はキャッシュの増加要因となります。
売掛金:(増加)CF+ (減少)CF-
在庫 :(増加)CF+ (減少)CF-
買掛金:(増加)CF- (減少)CF+
売掛金と在庫の増加がキャッシュフロー面でマイナスに働くのは、出荷・回収されれば現金化できるのにそれがなされていない為です。逆に買掛金については、支払いが一定期間猶予されているということで増加=キャッシュフローはプラスに働きます。
上記概念を踏まえて、運転資本増減の計算式を確認していきましょう。
運転資本増減=
-(当期売掛金残-前期売掛金残) :売掛金増分にマイナス符号
-(当期在庫-前期在庫) :在庫増分にマイナス符号
+(当期買掛金残-前期買掛金残) :買掛金増分にプラス符号
当てはめて計算します。売掛金は減少し+7、在庫は増加し-4、買掛金は増加し+6となり、合算すると+9が予測1年度の運転資本増減となります。
予測キャッシュフロー計算書_減価償却費
利益をキャッシュフローに変換するときは、現金支出を伴わない費用である減価償却費を足し戻す必要があります。
「営業CF:減価償却費」はP/Lの減価償却費より転記します。この時符号に注意してください。P/Lでは費用項目ということでマイナス符号で表示していましたが、C/Sでは減価償却費はプラス要因となりますので符号を反転させてプラスにします。
予測キャッシュフロー計算書_建物
「投資CF:建物」は、建物の設備投資に伴うキャッシュアウトを記入していきます。ここでは「建物」計算エリアの新規設備投資より転記しましょう。この時も符号の反転に注意してください。新規設備投資=キャッシュアウトですので、通常符号はマイナスとなります。
予測キャッシュフロー計算書_土地
「投資CF:土地」は、土地の取得や売却に伴うキャッシュフローを記入していきます。
計算式は、-(当期土地勘定ー前期土地勘定)となります。取得の場合はマイナスとなりますので、符号にご注意ください。ここでは増減なしでゼロです。
予測キャッシュフロー計算書_借入金
「財務CF:借入金」では借入金増減によるキャッシュフローを記載します。
計算式は、(当期借入金勘定-前期借入金勘定)です。
予測キャッシュフロー計算書_資本金
「財務CF:資本金」では、増資・減資があったときのキャッシュフロー影響を記載します。今回は増減資なしですのでゼロですが、計算式は入れておきましょう。(当期資本金-前期資本金)となります。
P/LとB/SをC/Sで連結
キャッシュフロー計算書から現金残を導出する
すべてのCF項目が埋まったら、期末現金残を算出していきましょう。
期初現金残と営業、投資、財務の各CFの合計値が期末現金残となります。
期末現金残=期初現金残+営業CF+投資CF+財務CF
期末現金残を求めたら、それをB/Sの現金欄へリンクさせていきます。
貸借対照表の貸借一致で整合性確認
現金残が入力できればB/Sの完成です!
貸借の一致を確認していきましょう。総資産と負債+資本の各合計値が一致していればOKです。もし一致していない場合はどこかにミスがあります。C/Sで間違いが見つかることが多いのでそこを中心に見直してみましょう。
ここまでで予測財務諸表作成は一通り終了です。B/S、P/L、C/Sを矛盾なくつなげることができれば財務モデラ―の入り口に立てたと言ってもいいと思います。